東京宝塚劇場で月組『スカーレット・ピンパーネル』を見る。


早々に外出して、開館と同時に京橋図書館へ出かける。約1時間後、雨あがりの曇天の蒸し暑い中を日比谷までテクテク歩く。解体工事中の歌舞伎座の前を初めて通った。午前11時、東京宝塚劇場に到着。今日の観劇は月組の『スカーレット・ピンパーネル』なり。


このたび月組を観劇することで、ひさしぶりに連続して5組全部を観劇する次第であるが、年10回公演はわたしにとってはやっぱりちょっとしんどいなあというのが、この半年間の実感であった。以前の頻度だったら全公演見てもそんなに無理はなかったけど、半年間に5回の宝塚観劇は食傷気味というと言い過ぎだけど、なんとなくこんなことではいけないという気になってくる。宝塚はお菓子のようだ。たまの糖分や脂肪分の摂取は絶好の気晴らしになるけれど、摂り過ぎると胃がもたれてくる。……というようなことをぼんやりと思いながら、曇天の道を力なく歩いて、やる気なく劇場の椅子にたどりつく。今年に入っての宝塚公演のうち、もっともたのしみにしていたのが今回の月組の『スカーレット・ピンパーネル』だったのに、当日になってみるとこのていたらく、ままならぬことである。


しかーし、劇場の椅子に座るまではやる気がわかなくても、ひとたび幕が開けば、いつもそれなりにたのしく、ああやっぱり来てよかった! と心の底から思うのが宝塚。今回の『スカーレット・ピンパーネル』は、星組で1度見ているお芝居なのでストーリー把握に縛られることなく、余裕をもって舞台を眺めることができて、よかった。主演の霧矢大夢さんは舞台姿がキリッと折り目正しくて、見ていて爽快だ、しかもコメディエンヌ的な余裕もたっぷりで歌は聴かせるし、言うことなしだ! と惚れ惚れであった。月組ではいつも越乃リュウさんがわたしのツボなので、見逃さないように気をつけていた、ロベスピエール! と心のなかで興奮する。あとは一人ひとりの名前はよくわからないながらも、「月組」全体として座員全員に一つの芝居を作り上げることに対する求心力のようなものが通底しているのが感じられて、さわやかな気持ちになった。「宝塚」にとどまらず、広く「演劇」を見ているという手ごたえを感じるような、よい舞台だなと思った。


そして、全体的にはとにかく脚本がよく出来ているなアと感心することしきり。ロンドンの邸宅に場面が切り替わるところの舞台面の美しさがちょっと忘れられない感じで、いつまでも心に残った。今度はどんな脚本なのだろう、どんな珍奇な場面が待っているのだろう、明らかにあまり面白くなさそうなのだけど実際はどうなのだろう……云々というような、おそるおそる見に行く感じが、わたしの宝塚観劇の際にはいつもつきまとい、それをあえて楽しんでいる。であるので、そんな楽しみがないのが、どんな脚本であるか知っている再演ものの物足りなさで、それが唯一の不満といえば不満かも。


劇場の椅子に座るまではまったくやる気がなかったというのに、2時半にハネて、ふたたび外に出るときはすっかりハイテンション。ひとまず休息いたそうと、ウエストへ行き、ジンジャータルトをつまみながら、コーヒーを飲む。同行の母より、「歌舞伎会」の小冊子『ほうおう』を渡されて、その『ほうおう』にて7月の新橋演舞場の詳細を目にしたとたん、「さよなら歌舞伎座」の喧噪以来、大歌舞伎のことをすっかり忘れかけていたけど、立て続けの宝塚観劇のあとは、歌舞伎がしみじみありがたい、来月ひさしぶりに歌舞伎を見られると思うと嬉しいなア! とさらに上機嫌。7月が待ち遠しい!