東京宝塚劇場で宙組公演『TRAFALGAR』『ファンキー・サンシャイン』を見る。


正午前、丸ビルで母と待ち合わせて、食事と買い物と喫茶と歩行を経て、午後4時前、東京宝塚劇場に到着。

このところ、宝塚にそこはかとなく飽きているのは否めないのだったが、今年1月にひさびさに見た宙組の『カサブランカ』が素晴らしかったので、今回は宙組というだけでだいぶテンションがあがっていた。わざわざ印刷して持参したウェブサイトに掲載の人物関係図を一通り眺めて、準備もバッチリだ、さあ来い! と、観劇前めずらしく張り切っていたら、突然場内が暗転し、齋藤吉正作・演出『TRAFALGAR ―ネルソン、その愛と奇跡―』の舞台がはじまった。と、はじまったとたんに、ナポレオンの蘭寿とむの「VICTORY~♪」の押し出しの強さに目を奪われる。3人が舞台に揃うプロローグがなかなかよかった。

と、『TRAFALGAR』は幕が開いた瞬間はとても胸が躍ったのだったけれども、全体的にはどうも脚本にやっつけ感がただよっているような印象で、見物側から見たら、もうちょっと練ればもうちょっと劇作品としての深みが出るそうな気がするのにもったいなア……と思ってしまうような、でも制作側からしたら、しょせんは宝塚、この程度でお茶を濁しておこう的なやっつけ感がただよっている、という宝塚のオリジナル脚本に抱きがちなことを典型的に思った。マンネリ東映時代劇を見ているときと似た気分。恋愛云々だけではなくて、ネルソンの軍人としての偉大さをもっと見たかったという気がする。装置などの舞台面もいまいち美しくない。

……とは思うものの、とりあえず見に来るといつも理屈抜きでたのしいのが宝塚。ディテールでは好きなところ、嬉しいところがあちらこちらにあった。まず、悠未ひろが素晴らしい! と興奮。ネルソンとエマが出会う舞踏会のシーンで、ぎこちなく踊るところ最高! ヘンリー王子の高貴なオーラに圧倒され、「殿下、あなたは?」と思っていたら、十輝いりすだと後で知った。大空祐飛のネルソンの左右に絶壁のようにそびえたつ悠未ひろと十輝いりす、この背の高さはいったい! そして、全編にわたって蘭寿とむが濃すぎて、登場する度に凝視せずにはいられない。たとえて言うならば「宝塚の天知茂」といった感じだった。ミラノのオペラ座での巻舌セリフに思わず笑ってしまった。赤マントの戴冠式姿のナポレオンにも「出たー!」と思わず笑ってしまった。主演の大空祐飛と野々すみ花とパラレルになるような、北翔海莉と花影アリスの好演が印象的であった。全体的には大勢の登場人物にちょこまかと見せ場をつくっている脚本家の苦心というか工夫が感じられ、そんなところも宝塚の醍醐味。ジョセフィーヌの五峰亜季が「ラ・マルセイエーズ」をちょこっと歌うところが好きだった。

「VICTORY~♪」が終わって、幕間をはさんで次はショー、石田昌也作・演出『ファンキー・サンシャイン』。開幕当初は電光がまぶしすぎて、「ま、まぶしい……」とやっとのことで目を開ける。歌謡ショーのような時間がしばらく続いて、ふと今はなき新宿コマ劇場を思い出し、ちょっと懐かしかった(行ったことなかったけど)。北翔海莉のソロが、古きよき宝塚を髣髴とさせて、素晴らしかった。ショーではこういう品のある場面をもっと見たいなあと思う。そして、舞踏というよりは体操という域に達している蘭寿とむの身体の動きに目が釘付け! 蘭寿とむさんに限らず、宝塚の舞台の鍛え上げられた身体の動きはいつも見ていて爽快なのだった。

 


師岡宏次写真集『東京モダン 1930~1940』(朝日ソノラマ、1981年2月28日)より、《東京宝塚劇場の横、絵は花組スター楠かほると二條京子(昭和13年)》。