久保栄の『小山内薫』に魅せられる。


 一転、今日はよいお天気。イソイソと外出、今日も朝はランランとノートを取りながら、本を読む。戸板康二の『演劇五十年』は自由劇場でいったんお休みすることにして、昨日の夜、書棚から発掘しておいた、久保栄著『小山内薫』を今日は読むことにする。こちらが自由劇場まで進んだところで、『演劇五十年』に戻るという計画。

久保栄『小山内薫』(文藝春秋新社、昭和22年2月1日)。装幀:硲伊之助。この時期ならではの粗末な造本ながらも、築地小劇場のシンボルの葡萄をあしらったシンプルな表紙。まずは書物としてのたたずまいが素敵。

と、戸板康二の『演劇五十年』に何度もその書名が言及されていたので、ずいぶん前に奥村書店で買ってから書棚に埋もれていた久保栄の『小山内薫』のことを思い出して、勢いにのって読んでみることにしたのであったが、読み始めたとたんに、明晰かつ格調あふれる筆致に魅せられて、メロメロになる。これは丁寧に噛みしめるように読まねばならぬ本だと、背筋をただして、読み進める。読み逃さないでよかったと心から思う。

中山太陽堂の東京支店に広告部の顧問という名目で勤めていた小山内薫、図案を担当していたのは平岡権八郎(松山省三とともに「カフェープランタン」を経営、他に新橋の花月楼、明治生命の地下食堂マーブルも!)、といったところに「おっ」となる。小山内の洋行費用は太陽堂の出資による、というところなど、震災後の関西のプラトン社をとりまくあれこれにつながってゆくのだった。近いうちに、プラトン社あれこれについてもおさらいしないといけない。……などなど、なにかと目が覚めっぱなしなのだった。

いつだったか、NHK-BS で放映の渡辺保さんの演劇番組(いつのまにか終わっていて残念)で久保栄の『火山灰地』が放送されて、なんとなく眺めていたら妙に感激して、戯曲を読まねばと思ったものだった。近いうちにぜひとも読みたいものだと思う。

 

「日本演劇」昭和22年6月号。表紙:石井柏亭《マリオネットの「シラノ」》。座談会『小山内薫を語る』(久保田万太郎、水木京太、大江良太郎、安藤鶴夫、利倉幸一、桑原経重、久保栄、司会が戸板康二)の掲載号。久保栄の『小山内薫』の刊行に際して戸板さんが企画した座談会。戸板さんが久保栄のことを書くときに必ず言及するネタ、座談会のあとになって久保栄が掲載を拒否してたいへん困ったという挿話でおなじみ。久保栄の『小山内薫』を読了したあとでじっくりと読み返すべく書棚から取り出しておく。