世田谷美術館で川上澄生展。夜の京橋交差点で昭和初期の都市風景をおもう。


朝からよいお天気で嬉しい。いつもと変わらない時間に起きていつもと同じ時刻に外出。永田町に向かって、青空の下を強風に吹かれながらテクテクと歩いてゆく。その途上、コーヒーショップでひと休み。椅子に座ったとたんに、首に巻いていた巻きものが消えていることに気づいて、呆然。今ごろ、風に吹かれてどこを飛んでいるのか……。がっくりとうなだれたあとで、昨日入手したばかりの編集工房ノアの新刊、河野仁昭著『天野忠さんの歩み』を読みふける。ちょうど開館と同時に国会図書館に到着するように、ふたたび立ちあがって、ふたたび青空の下を強風に吹かれながら、テクテクと歩いてゆく。


正午過ぎ、国会図書館を切り上げて、永田町から半蔵門線にのって、用賀で下車。砧公園に向かって、青空の下を強風に吹かれながらテクテクと歩いてゆく。世田谷美術館にてくつろぐ休日の午後。川上澄生展をゆるりとめぐったあとで、常設の《麻生三郎と世田谷の仲間たち》展とほんのわずかの村山知義展を見物して、なかなか満喫だった。

 

能書き云々は抜きにして、目の歓びというだけで幸福感あふれる川上澄生展。前期と後期とでガラッと展示替えするそうなので、もう1度行けたらいいなと思う(と言いつつ、遠いので行かない気がヒシヒシ)。行けたらいいな、と言えば、宇都宮にまた近いうちに行けたらいいなと思った。

 


今回の展示で一番嬉しかったのは、やはり《新東京百景》。おなじみの「丸ノ内一景」(昭和5年)も、版画の図面を目の当たりにすると、あっと驚く美しさでぽーっと頬が上気してくるくらい。


戸板康二と『新東京百景』といえば、昭和53年4月に平凡社にて刊行の『新東京百景 木版画集』に寄稿の解説、桑原甲子雄と師岡宏次の写真を交えた、戸板康二の「新東京百景」が絶品。この文章の存在を、「別冊太陽」の海野弘監修『モダン東京百景』(1986年6月)所収の海野弘の文章で知って、図書館に突進したのはもう数年前。以来、戸板康二の「新東京百景」のコピーは「別冊太陽」の間に大切に挟み込んでいる。木版画集の方はいまだに入手していない。



帰りは世田谷通りを走るバスに1時間近く揺られて、日没直前の渋谷駅前に到着。渋谷の東急東横店の建物にも戦前のモダン建築の名残りがあって、銀座線の乗場までの道のりもたのしい。……などと、関西遊覧のときとまったくおなじように、モダン都市の残骸探しについ熱中。そんなこんなしたあと、地下鉄にのって、銀座へワインを飲みにゆく。


夜、酔い覚ましに日本橋まで歩く。第一相互ビルが取り壊されたかと思ったら、片倉ビルの取り壊しも始まっていて、ますます京橋の町並みは一変、まわるアサヒペンもどこかへ消えてしまったなアと、夜ふけの京橋交差点に立ちすくんだあとで、明治屋の前を通りかかって、ふたたびしばし立ちどまって、明治屋よ永遠なれ、と心から願う。



《片倉館 増築》(位置:東京市京橋区京橋三丁目、設計:大野功二)、『工事年鑑 皇紀二五九八』(株式会社清水組、昭和13年3月25日発行)より。